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肝臓・前従隔再発

2008年3月~6月

息子の卒園式に参列した翌週、外来で病院を訪れると、既に主治医は消化器外科の医師では無く、消化器内科の腫瘍内科医に代わっていた。
夫は、肝臓の手術担当医から勧められた通り、TS-1の内服継続をお願いしたが、断られた。
「お願いしようにも、取り付く島もないんだよ。必要ないでしょう で終わっちゃったよ。」
肝臓の外科医からは、既に、5年生存率20%と告知されていた。
子供連れの患者を前に、慌ただしく生存率を述べ、患者の願いを、目も合わせず一言で却下する医師達が、まるで機械のように、患者はただの症例に過ぎず生身の人間とは見えていないのではないか、と感じられた。

4/4、夫は職場へ復帰した。
身体はどんどん回復し、この頃には食欲も戻り、胃摘出前の7~8割強程まで食べられる様になっていた。

5/27、CT検査の結果、夫は肝臓・前従隔への再発を告げられた。
再発告知の後、そのまま治験参加の説明を受けたが、夫の落胆は激しく、再度説明の為の外来予約をとった。

6/6、夫と病院へ行き、抗がん剤の説明を受けた。
胃がん再発の場合、使用する抗がん剤は
・TS-1
・シスプラチン+イリノテカン
・タキソール
・マイトマイシン
とのことで、この段階でなら治験に参加することが出来、治験薬を使うことによって、使える抗がん剤の数が1つ増えることになるとのことだった。

術後補助としてのTS-1は効果が無かったかもしれないが、もう一度、他の抗がん剤との併用で使ってみることは出来ないかと聞いてみたが、即却下された。
夫は治験参加について迷っていた。
正確に言えば、再発のショックが大きすぎて、何が何だか、よくわからなかった。
主治医は沈黙に苛立っている様だった。
再度、治験薬を使用する利点を述べ、
「治験とは、使用した抗がん剤の数が少ない人が対象となる」
「今だから参加出来る」
といった説明を続けた。
夫は、私の顔を見て、それから、治験参加を主治医に告げた。


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治験開始(1)

2008年6月

この頃の夫の手帳には、肝臓転移が無ければ継続していたはずの、
消化器外科の外来予約日や検査予約日の書きこみに、
大きく×印がつけられ、長期療養の為の有休残日数が、
入院の度に色字で記されている。

抗がん剤治療は薬剤によって多少違いはあるが、
月に1~2回1週間程の入院が必要となることなどから、
仕事への影響を心配していた。
「今回の再発を報告したから、多分、そのうち異動になるだろうな」
実際、もう既に、夫は責任あるポストからはずされ、
同期や後輩は昇進していた。
「俺は、一体何の為に、今まで仕事を頑張ってきたんだろうな」
酔った時、ポロッと口からこぼれ出る夫の本音に、
かける言葉がみつからなかった。

夫は本当に仕事が好きだった。
定年前に「がん」を患うということは、
闘病の苦しさ・辛さだけでも十分大変なことなのに、
その上、家族への責任や職場での苦労までも
背負わなくてはならないのだと思った。

傍で、時には一緒に飲みながら、
一緒に笑って、一緒に泣いて、
ただ、夫の言葉を聞くことしか出来なかった。


6/6 採血等の検査の結果、夫の治験参加が決定し、
翌週から2週間程度入院して投薬開始となることを告げられた。


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治験開始(2)

6月11日~23日

治験薬の「NK105」は、それに含まれている有効成分のパクリタキセルに、特殊な高分子成分を加えて小さな粒子にし、がん組織に集まりやすくしたもので、通常のパクリタキセルと比較して、体内に長く留り、抹消神経障害が軽減されると考えられている。

6/11に入院し、翌日NK105の説明や、投薬スケジュールなどを説明された。
病棟は治験専用病棟となっており、初日はベッドの空きが無かったらしく個室へ案内された。
翌朝、病院へ行くと、通常の4人部屋に代わっていたが、まだ自覚症状も無く元気だった夫は
「個室は怖いよ」
と、部屋の変更を喜んでいた。
投薬開始は翌週月曜日の6/16からとなり、多少の検査を受けながら、ゆっくりした時間を過ごすことが出来た。

6/13は外出許可をもらい、2人でランチに出かけた。
「ここの病院食は、なかなか美味しいよ」
と言ってはいたが、元気な夫は、四六時中ベッドの上でおとなしくしていることは苦痛だったらしく、私が着くのを今か今かと待っていた。
職場近くということで、夫は地理に詳しかった。
「あの店は○○が旨いけど、混むんだよな」
「あの店、一回食べさせてやりたかったんだよ」
なんて、お店を指さしながら、その特徴を挙げて行く。

「胃がん」と診断されてから、特に、抗がん剤を始めてからは、辛いことや苦しいことが多かったけど、でも、その合間合間の、副作用の辛さが徐々に身体から抜けてから次の抗がん剤までの、苦痛少なく食べられる、過ごせるという短い期間が、私達には宝物の様に感じられた。

その日、帰宅後、夕食の準備をしていた所に、
「外泊許可もらったんだ。驚かそうと思って」
ニコニコした夫が、ドアを開けて入って来た。日曜日夜までの外泊だった。
息子は嬉しそうに
「パパー!」
と駆けて飛びついた。嬉しかった。幸せだった。

6/16 NK105投薬開始。
ここからまた、さまざまな副作用に苦しむことになった。


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治験開始(3)

6/16 NK105投薬開始。
開始日は、夜には水下痢となり、翌日は軽いのぼせ感があったが
それほどひどい副作用は感じていなかった様に思う。

退院後、徐々に手足、特に足のつま先のしびれを感じ、
このしびれ感は次の投薬まで消えることは無く
投薬の回を重ねる毎に、しびれは痛みへと変わっていった。
革靴を履くのが辛く、先の細い靴は履けなくなった。

初回投薬後から、シャンプーの度に髪が大量に抜け
朝起きると、枕に沢山の髪の毛が抜けおちていた。
その徐々に抜けていくことに、かなりのストレスを感じていたらしく
投薬2回目終了後、シャンプー時にごっそり抜けた髪の毛を見た途端
お風呂場から大声で私を呼び

「もうダメだ。刈ってくれ」

と、電動ヒゲ剃りを渡された。
まだ、少し薄くなってきたかなという程度だった為
そのことを伝えたが

「手にごっそり抜けてくるのがもうイヤなんだ。」

その必死な様子が、辛かった。
洗面所で、初めて夫の髪を刈った。
最初は、5分刈り位に刈っていたが
徐々にまだらになり、
その髪が抜けてチクチクする感じが堪らなかったらしく
最後には、剃りあげて丸坊主になった。

5分刈りの頃、私にはうまく出来ない為に
何度か床屋さんに行った。

「こんなちょっと刈るだけで○千円もかかったよ。
 ヘンな顔されたから、自分から
 抗がん剤で抜けたって言ったんだ」

これもストレスだったらしく
バリカンを購入して、私が刈る様になった。

夏は直射日光が辛く、冬は寒かった。
帽子が必需品となったが

「仕事中に、スーツ姿では被れないよ」

と、よく言っていた。

丸坊主にしたばかりの頃
夫と息子と3人で外出した時
夫が少し離れて歩いていることに気付いた。
どうしたのか聞くと

「だって、イヤだろ。」

と返ってきた。
なんだか泣きたくなった。
3人、並んで歩いた。
息子は夫と手を繋ぎ
私は夫と腕を組んだ。

刈りたての頭は、まだ青白く
すれ違う人々の視線が、ジロジロと頭に集り
避けて行くのがわかった。

毎日、1人、通勤電車や歩きで
どんな想いでいたのだろうかと思った。
ただ無性に、悔しかった。


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治験開始(4)

2008年6月~12月

脱毛は、頭だけに止まらなかった。
全身、脱毛することを知った。
普段は、眉毛やまつ毛が無いことが辛かった。
丸坊主で、眉毛が無い。

「満員電車なのに、俺の廻りだけ少しゆとりがあるんだよな」

太枠の黒縁の眼鏡で、大分印象が変わることに気付いた。
家族旅行の回数が増えたが、お腹の傷も目立ち、
温泉もまた辛かったようだ。

「パパが入って行くと、他の人がみんな上がって
 2人だけになったから、泳げたんだよ」

「誰も目を合わせないで、面白いくらい
 サササッと上がって いくんだよなぁ。
 スキンヘッドだし、お腹の傷あるし、眉毛無いし
 ちょっと怖い?」

なんて、息子と一緒に笑ってた。





この頃、日頃から、夫と意見が対立していた上司が
飲み会の席で、夫の後ろから
夫の刈ったばかりの青白い丸坊主頭のアップ写真を
携帯で撮って、職場の皆にメール添付で送り
笑い話にしたことがあった。
もともと仕事の進め方で衝突したこともあり
夫は目ざわりな存在だったのだろう。
夫にも送られた添付画像を私に見せながら

「人間性だよな。
 これが上司なんだから、イヤになるよ」

と、苦笑していた。
「がん」とは、本当に辛く苦しい病だと思った。
治療の辛さだけではなく、廻りの人々の偏見とも
闘っていかなければならない。
外傷とは違い、抗がん剤の副作用の苦しみは
目で見えるわけでは無いだけに
廻りから理解を得ることは難しい。
人々の「人間性」が見える病でもあると思った。

それでも夫は、あの穏やかな、彼独特の笑顔で
最期まで仕事を続け、私と息子を守り続けた。
夫の強さが、傍にいてくれるだけで
守られていると思えた、あの安心感が
とても恋しい。


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