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霊安室

2010年3月12日

結婚して20年、結婚当初から、口喧嘩をした後などに
私がいつまでも怒っていると

「○○(私)が死んで、もし地獄に行ったら、俺が必ず
  昔話みたいに、クモの糸を垂らしてやるよ。
  でも、昔話みたいに、○○は他の人たちを蹴散らすから
  クモの糸が切れちゃうんだ」

と、夫は笑いながら、よく私をからかった。

息子が生れてからは、そこに息子も加わり
地獄にいるのは息子と私になった。
息子は悔しそうに、よくパパに言った。

「どうしてパパだけが、いっつも先に天国にいるんだよ」




私達が住んでいたマンションは、会社の借上げ社宅であった為
最期に、夫を連れて帰ることは叶わなかった。

夫が亡くなった翌日、
斎場の霊安室で、棺の蓋を開け、
冷たく凍った夫の顔に初めてふれた息子は
一瞬ビクっと手を引き
すがるように私の顔を見て

「パパ、冷たい」

と言ったきり、また黙って夫の顔を見つめながら
ぽろぽろ ぽろぽろ 涙を零した。
それでも、また、顔にふれ、前の晩に書いた夫への手紙を
夫の胸元にそっと忍ばせた。

その場には、立会の葬儀社さんと、息子と、私だけ。
夫の親族が来る前に、家族だけで、ガラス越しにではなく、直接ふれて
お別れをしたかったから。

葬儀社さんが棺の蓋を閉める為に背中を向けた時
息子が突然、天井を指さして小さな声で言った。
「ママ、パパだよ」
つられる様に、天井を見た途端
黒いクモが、息子と私のちょうど真上から、
スルスルとクモの糸をのばして下りて来て
目の前を通り、床に着地した。
その時、葬儀社さんが振り返り私達に何か話しかけた。
注意が逸れたその一瞬の間に、クモは消えてしまった。

「ママ、パパいなくなっちゃった」
あわてて、大きな声で言う息子を、葬儀社さんがなだめた。
「大丈夫だよ、蓋をしただけで、パパはここにいるよ」

息子と顔を見合わせた。
同時に、みるみる涙が溢れた。


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テーマ : つぶやき - ジャンル : 日記

夢 帰ってきたよ

2010年3月13日

葬儀を終えると、次は山のような手続きと
四十九日の準備を始めなくてはならない。

でも、私は、夫が亡くなってしまったという現実を
受け入れることが出来ずにいた。
今、どうしてもしなければならないこと以外は、
全て後回しにし、家にこもり、現実を締め出していた

「もう会えないわけない」
「絶対、帰ってくる」

そんなこと、あるはずないのに、
なぜか、絶対の自信を持っていた様に思う。
始終、遺骨と遺影の前に座っては、泣きながら夫に語りかけていた。

「帰ってきてよ。
 会いたいよ。
 なんでいなくなっちゃうの。
 淋しいよ。1人にしないでよ。
 早く、帰って来てよ。」

こんなことばかり、語りかけていた。

葬儀から一週間ほど経ったある日
いつもの様に語りかけ、泣くだけ泣いて疲れきって眠りについた夜、
夫は夢に現れた。

玄関口の段差を上がりながら、
いつもの湯上り後の、半袖アンダーシャツにボクサーショーツ姿で
いつもの笑顔で、迎えに出た私の正面で、
私の顔を見て立ち止まり、穏やかに微笑みながら
「帰ってきたよ」
って、一言。
そのまま、私の横を通り過ぎ、リビングに入って
床に座って遊ぶ息子の横に、あぐらをかいて座り込み
目がさめるまで、夫は息子とブロックで遊び続けた。

泣きながら目が覚めた。
手をのばして探しても、夫にふれることは出来なかった。


テーマ : 家族日記 - ジャンル : 日記

夢 起きろ

2010年3月14日

七七忌の法要を終え、お位牌をお仏壇の義母の隣りに移した。

義母のお仏壇は、当時寝室にしていた六畳間の和室にあった。
そこに布団を敷いて、親子3人、いつも川の字で寝ていた。
お位牌を移すと同時に、沢山のお花も、お仏壇の廻りに
義母と夫から見える様にと移した。
室内は、いつも、百合の香りがした。

息子と布団を敷きながら

「お花の花瓶、ちょっと怖いね
 ○○(息子)はものすごく寝相が悪いから
 コロコロ転がって倒さないでね」

なんて、よく話していた。

七七忌を終えた数日後、
いつもの様に、息子と1つ布団で眠っていた私に
夫が怒った顔で
やっぱり、アンダーシャツにボクサーショーツ姿で

「起きろ!
 ママ、早く起きろ!
 起きろ!」

何故か、夢だってわかってた。
起きろって言われたけど
起きたくなくて、泣きながら
必至で夢にしがみ付いていた。

でも、ふいに目覚めてしまった。
目を閉じたまま、それでも必至で夢に戻ろうとしたその時、
走り回る足音がした。
パッと目を開けると
息子が、襖を開けて走り出て行った。
リビングの小さい明りだけが点いていた。

「どうしたの? 何かあった?」

起き上がって、和室の電気を点けた。
花瓶が倒れて、水がもう少しで布団まで達しようとしていた。
息子が慌てて雑巾を掴んで戻ってきた。

何も、あんなに怒った顔しなくてもいいじゃない。
・・・ありがとう。

息子と畳を拭きながら
今の見た夢を、話して聞かせた。
「パパ、やっぱり守ってくれてるんだね」
息子は嬉しそうに笑って、素直に受け入れた。


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夢 泥棒

2010年3月15日

夫が亡くなった時、私達が住んでいたマンションは
夫の会社の借上げ社宅だった。
ゆっくりとした退去期日を提示しては下さったが
何もかもが中途半端な様な気がして落ち着かず
必要最低限の買い物・用事以外、外出しなくなっていたことや
これからの息子のことなど、いろいろ考え
七七忌法要を終えてから
私達は、両親と兄弟・親戚の住む地へ転居した。

引越しから数日後の夜中。
夢の中のリビングで息子と2人寛いでいる所へ
まるで知らない顔の男の人が、突然現れた。
いまも、顔までハッキリと覚えている。
薄いジャンバーを着て、ガッシリとした、
ジーンズ姿の、背が低めの男の人。

どういう理由か、夢の中で、私はその人を夫だと認識している。
その夫が、リビングにどっかと腰かけて

「戸締りちゃんとしたのか?
 泥棒が入るぞ。
 ちゃんと戸締りしないとダメだ」

と、私の顔を見て言った途端、目が覚めた。
夜中の3時過ぎだった。
何故だか落ち着かず、迷いながらも
やっぱり起きだして
次から次に部屋の電気を点けながら
窓のカギやドアのカギを確認して歩いた。

リビングとは反対側の、廊下の先の息子の部屋。
机の脇の大きな窓のカギがかかっていなかった。
道路とは反対側の、駐車場に面した窓。
引越しの日に窓を開けた時のまま
ずっと施錠されていなかったのだ。
部屋は1階。
背筋がゾクっとした。

急ぎ寝室に戻り、息子が眠る布団にもぐりこんだ。
息子は湯たんぽみたいにポカポカだった。

この日を最後に、夫は夢に現れてはくれなくなった。





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いつも傍に

2010年3月19日

夫が亡くなった翌日の夜
帰って行く親族達を見送った後
息子と2人、どうしたらいいのか・・・
夫のいない家が、やけに空っぽに感じられ
淋しくて、淋しくて、淋しくて・・・
身体中に、温もりなんてこれっぽっちも残っていない様な
何もかもが止まってしまって
世界中に息子とたった2人だけで取り残されてしまった様な
空虚で・・・孤独だった。

今まで通り、まだ入院している様な気もした。
抗がん剤投与でよく入院していた、がん専門病院の
家族と過ごす夕刻の食堂で、1人私達を待つ夫の姿や
病室のベッドに横たわって、テレビを観る夫の姿
1階まで見送ってくれて、手を振り続ける夫の姿
そこに行けば、またすぐ会える様に・・・
そんな姿ばかりが浮かんできて
でも次の瞬間には 

もう、あの病院にはいない
もう、帰っては来ない

現実が襲ってくる。
果てしない孤独感に、胸が張り裂けそうだった。




いつもはうるさいくらいの息子は
静かに、いつもの夫の場所 の傍に座り、
壁に背を預けて、おもちゃをいじっていた。

ふいに、息子の側のテレビが目に入った。
夫が、最後のボーナスで
何度目かの 最後のわがまま と言って購入した
薄型大型テレビの真っ黒い画面。

「パパ、いてくれてるのかな?
 テレビで見るみたいに、写真に撮ったら
 パパ、写らないかな?」

息子と共に、すぐにデジカメを取り出し
パパの大事なテレビの画面に
パパの定位置の紺色の椅子に
デジカメを向け
半押しで、ピント合わせをした。
最初は空気中に浮遊するゴミだと思った。
大小の白いモヤの様な○が
上下左右に、早いスピードで画面を通り過ぎる。
シャッターを押しこんだ。
テレビ画面に、夫のイスに
淡い、モヤの様な、白い○が沢山写った。

「これ・・・パパだよね」

ピント合わせの半押し状態で画面を覘くと
時に、それは赤い流れ星の様に
画面中を流れていった。

絶対にパパだと思った。
息子と共に、笑ってた。
それからは毎日、デジカメを撮り続けている。

母や兄、義弟、親戚
皆、曖昧に笑って信じてくれない。
きっと「大丈夫かな」って思ってる。
兄は、電波が写りこんでいるだけだと言う。

でも、それは、泣いたり、文句を言ったりした時
嬉しい時、変化する。
引越して、ひと月くらいは・・・写らなかった。

息子と2人、絶対にパパだと思ってる。
パパがいつも、見守ってくれているんだと
信じてる。


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